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『街の手帖 28号夏号』に虐待を受けた子どもの心理についてのコラムを書いています

戦争被害者のために寄付をしている人の、すぐ隣の家の中で、戦争の中で起きているのと同じくらいの人権侵害行為が行われていること。
 そこには大抵、BBCの記者はやってこない。戦場カメラマンも来ない。もし、報道されることがあったとしても、「人の家庭のことだから」と、みんな踏み込むことを躊躇してしまう。
 「河村さんの専門性を出したものを書いて欲しい。」『街の手帖』の編集長からそう言われたとき、子どもの心理のことを書こうと思いました。様々なトピックが考えられるなかで、私が書くべきなのは、やはりこういったことなのではないか、と考えました。

 

 『街の手帖 28号夏号』(コトノハ)に寄稿しました。タイトルは「ちいさなこえを聴く」です。

 

 小津安二郎監督の映画に『東京物語』という作品があります。
 時代は終戦後で、尾道から高齢の両親が、東京に住んでいる息子や娘に会いに来ます。しかし、実の息子や娘は、両親を持て余し気味で、温かく接してくれるのは、死んだ次男の嫁である義理の娘だけです。せっかくやって来てくれた両親を、実の息子や娘は熱海に行かせてしまいます。いまよりもずっと移動が困難であった時代のことで、広島の尾道から東京まで、長時間列車に乗ってやって来てくれたにもかかわらずです。
 実の息子や娘はひどいなと、この映画を観ているときは思います。しかし、見終わった後に自分の親に対する態度を振り返ってみると、義理の両親には親切にできても、実の両親はぞんざいに扱ってしまう、という人も多いのではないでしょうか。
 それは、あなたが両親から愛されている証拠です。両親に対してそういった態度をとったとしても、両親は変わらず自分のことを愛してくれているだろうという確信があることは、よく考えると幸せなことです。
 『街の手帖』の原稿を読んでいただいたら、こういった心理をさらに理解できることと思います。ぜひ読んでみてください。