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東畑開人『野の医者は笑う』の感想

 私は臨床心理士たちで『資本論』を読む会に参加していました。

 月に一度、マルクスの『資本論』の課題範囲を読んで、カフェで自由に話し合っていました。

 参加者は、私も含みみんな、臨床心理士です。 カウンセリングルームを営んでいる方もいれば、大学講師をされている方もいました。

 私は、生きづらさを抱えながらこの社会でどうやって生きていくのか、ということを考えることに興味があります。そうした活動をしていくなかで、ミニマリズムの方や自分でスモールハウスを作って住んでる方に出会うことがあります。そういった人たちの中には、資本主義を否定して贈与経済といったことをいう方々もいます。私はそうしたことを考えるために、先ずはマルクスを読んでみなくてはと思っておりました。

 この会を主催しているのは、東畑開人さんです。東畑さんは、臨床心理学を文化の観点から論じておられるのですが、現代の私たちが囲まれているものを考えたときに、それは日本文化以上に市場主義ではないか、と思い、市場の問題を考える必要性を感じ、『資本論』の読書会を思いついたそうです。

 

 東畑さんの著書に『野の医者は笑う‐心の治療とは何か?‐』があります。

 この本は、東畑さんが沖縄に滞在していた時代に、“ヒーラー”を名乗る怪しい治療者たちの治療を自らの身をもって片っ端から受けに行った体験が書かれています。

 医療人類学という学問があります。その名の通り世界各地の様々な文化の治療を研究するものですが、例えば、アフリカの呪術医がアフリカ文化の賜物であったみたいに、近代医学だって普遍的なものではなくて文化に規定されたものであり違う文化の人から見れば何から怪しいものに見えてくる、という風に考え、治療を科学現象ではなく文化現象として見るのだそうです。それでは、治療とは一体何なのか、何が治療になるかはどういうルールで決められているのか、というのが医療人類学の問うところです。

 この医療人類学を沖縄のヒーラーや臨床心理学に応用して、心の治療の本性を明らかにしようとするのが、この書です。

 ユーモア満載の文章で書かれており、東畑さんが体験したことの描写は抱腹絶倒もので、とても読みやすい本です。

 

 東畑さんは、沖縄のヒーラーに会っていくなかで、彼らのほとんどが深刻に病んだ時期があり、それを潜り抜けた後にヒーラーとしての活動を始めていることに気づいたそうです。

 これはけっこう普遍的にきかれるはなしで、シャーマンも臨床心理学を学ぶ学生も、かつて傷ついた人であることがとても多いです。

 

 この、病の状態に陥ることをただネガティブにとらえるのではなく、そこに意味を見出すのは、ユング心理学的だと思います。

 しかし、傷つきがある人であれば誰でも治療者になれるわけではありません。シャーマンになる人は、精神病のような状態になるといういうなればあの世的な世界を体験しますが、そこからこの世に戻ってくることが出来た人だけが、シャーマンになることが出来るのです。

 とはいえ、治療者を特権的な存在ととらえるのではなく、クライエントとある意味水平な存在であるととらえる視点があると思えます。

 

 箱庭療法・心理カウンセリング東京のセラピストは、ユング派のセラピストです。こういった感覚を持ち続けながら、日々来室されるみなさんと会っていきたいと思っております。